貴様は眼鏡を甘く見た

人生ってSF。

作れども作れども その1

第一話 植原さんの胸には夢が詰まっている 「ちょっと聞いてくださいよ、結構いいんですよこの曲!」
そう言って僕は植原さんにヘッドフォンを渡した。植原さんは無表情で受け取り、耳に当てる。それを見て僕は、わくわくしながら再生ボタンを押した。

「超かっこいいじゃんこの曲!だれだれ!?なんてバンド!?」
「ね!いいでしょう!?いやぁー、これ作るの大変でしたよ!」
「えっ、この曲作ったの伊勢田くんなの!?すごいじゃん!ちょっとこれやばいよこれ!」
「まじっすか!嬉しいなぁ!」

みたいなやりとりを想像しながら、押した。
一分。
二分。
植原さんは無表情のままだ。
あれ?曲流れてるよね?あれ?音量ちっさいのかな?
音量をいじる。
「うるさい、下げて」
「…ごめんなさい」
怒られた。
そして曲が終わった。

「……うん」
「どうでしたか!?」
「うん、まあ、いいと思う」
「あ…はい、ありがとうございます」
「あれ?伊勢田くんが作ったの?」
「いやっ…うん、まあ、はい…」
「そうなんだ。へぇー、意外」
植原はやっぱり無表情だ。僕は居心地が悪くなった。

間もなく仕事の休憩時間が終わる。
「タバコ吸おうよ」
「あっ、はい」
植原さんについて喫煙所へ向かう。
「伊勢田くんって音楽やってたんだ」
「一応、高校生の頃からギターを」
「ふーん」
興味なさげに相づちを打つ植原さん。揺れるポニーテール。植原さんって髪なげぇなぁ。おろしたら胸ぐらいかなぁ。胸か。植原さんの胸。
「伊勢田くん」
「はいッ!」
「?なにびびってんの。ごめん私部長に呼ばれたから」
「あっ、そうですか…」
携帯を握った植原さんは機械的に方向転換して、すたすたいってしまった。
取り残された僕は、ぼんやりと思う。
良い曲を作らなければ、と。
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